小さな民話③

【地獄谷の鼻釣り】

毛原の東出と中出の間に「地獄谷」と言う深い谷がある。昔は道がせまく、地形に沿ってつけられていたので、この谷を越えるには、どうしても一旦は谷底まで下らなければならなかった。
村の子どもたちは、日の暮れるのも忘れて遊ぶのでこの谷を越える時は真っ暗になっていた。その戒めだろうか、親たちは「あの谷には恐ろしい鼻釣りがおって、通る人の鼻をカギで引っかけるんや。暗くなるまでに早よう帰らなあかん。」とおどしたものである。それで子どもたちはそれを信じて、谷を越える時は、昼でもこわごわ通ったのである。

【神野寺のお坊さん】

神野寺のお坊さんが夜、囲炉裏にあたっておられた。「どん」と音がして、天狗さんが入って来て、囲炉裏の向こう側に座った。二人共無言で朝まで対座した。夜明けとともに天狗さんが去ってしばらく、どすんと大きな音がした。お坊さんが外に出て見ると、柴、割木が山のように積まれてあった。天狗のお礼返しやったと言う。
神野寺のお坊さんは筑紫(福岡県)の国から来ておられた。ツクツクホーシが鳴いたり、つくしが生えると、里心が出て帰りとうなるので、ツクツクホーシが鳴かんように、つくしが生えんように村の人は心配したと言う。だから神野山では、今でもツクツクホーシは鳴かんし、つくしは生えんそうや。