嫁のはらいた

日暮れがた、夕飯たきをしていたお嫁さんが、急にしんどなったんで、姑さんが「こら、えらえらいこっちゃ、早う菅生のお医者さん呼びに行かにゃ」と外へ出てしばらく山道を歩いて行きゃった。
yomenoharaitaそしたら向こうからその菅生のお医者さんが来やはるやないか。姑さんはよろこんで「先生、ええとこへ来てくれやってんて、今、うちの嫁のしんどいのわかりゃってんな」と先生に言やった。
先生はひとことも返事せずに、どんどん、どんどん先に行きゃんので、後をついて行きゃったら、先生が先に行って、それから先、見えやんようになって、あたりを見るとなんと方向ちがいの「玉阪の峠(たまさかのとうげ)」まで来てやってんと。
こんな所へ、なんで来てんやらと思って、いっぺん家へかえりゃったら、嫁のしんどいのもなおって、夕飯たきをしてくれとったんやって。姑さんは、「あの先生はきつねさんやってんやろか」と何がなにやらわからんようになったとさ。