つちのこの話

当地方で言う五八寸(ごはっすん)あるいはごん蛇(ごんじゃ)とは、つちのこのことかと思われる。つちのこに出会ったという人は、日本の各地にあるようだが、そのつちのこなる動物を捕獲しようと山狩りなどをしても、絶対姿を現したことがないということである。ではその幻の動物とでもいうべき、つちのこの当地での話。

◎暗谷のごん蛇(五八寸)

北野から大塩へ通じる県道の中ほどに、暗谷橋があります。そこを流れる暗谷川は、神野山の中腹に源を発し、渓谷を経てオイセ川に注ぎますが、この暗谷という所は、昔はうっそうと樹木が茂り、昼なお暗いところでした。
この暗谷には、昔からごん蛇(または五八寸)が住んでいると伝えられています。
ごん蛇は坂を転がるときの形が直径約5寸、長さが約8寸だから「五八寸」と言うのだと思います。「五八寸」が坂を下るときは、頭を中に体を丸くして、コロコロ転げ降りるそうです。反対に坂を上るときや、平地においては、蛇と同じように歩行すると言います。昔の人はこの暗谷で、よく五八寸の転がるのを見たそうです。

tutinoko◎カンノ谷のしんぐりまくり

村道津越~牛ヶ峰線の途中に、カンノ谷という所があります。昔はこの谷を横切って、狭い急な坂道が通じており、樹木が覆い茂って昼でも薄暗い所で、谷筋の道端にはきれいな泉が湧いていました。
子供は年寄りから「カンノ谷はしんぐりまくりが出るから、日が暮れると怖い 」とよく脅かされました。しんぐりまくりが、泉の水を飲むため、上の山から転げ降りてくるというだけのことですが、薄気味の悪い話で、この道を一人で通るときは、息せき切って坂をかけ上がるのでした。

しんぐりというのは、腰に吊り下げる竹編みの容器で、農作業のときの種もの入れや、釣人の小魚入れなどに使われているものの名称です。直径5寸、深さ8寸ぐらいの大きさが標準でした。また、まくりというのは「まくる―転がす」という意味です。
そんなしんぐりが、山から転げ下りてくる。転がしているのは一体何ものだろう、というところに怖さが潜んでいます。物体であるしんぐりが勝手に転がるはずもなく詮じ詰めれば、しんぐりの形に似た何ものかが、転がり降りてくるということになります。そこで思い当たるのが、暗谷の五八寸(ごん蛇)と同じ動物が、このカンノ谷にも生息していたということになります。

◇今もしんぐりまくりはいるの?

この谷を通りかかったある人が道端で立ち小便をしました。天を仰いで、気持ちよく小水を放出しておりましたが、ふと、ものの気配を感じて横を見ると、蛇のようで蛇でもない黒い生きものが、2mほど先の所を、スーッと音も無く茂みの中に入って行きました。
いまだかつて見たことのない変な動物でしたので、その人はびっくりして、友達の所へ行ってその話をしましたが、「狸でも見たのやろ」と言って友達は取り合ってくれませんでした。勢いよく落下する小水の音を泉の音と勘違いしたしんぐりまくりが思わずでて来たのかもしれません。

後日、その話を聞いた人が時折その場所へ行って水を流してみるのですが、まだしんぐりまくりに会うことができずにいるそうです。一度は姿を見せても、次のときには探しても姿を現すことのないつちのことは、やっぱり幻の動物なのでしょうか。