しんぐりまくり

村の中央の高いところに、八王子神社があります。「助命(ぜみょう)の村に過ぎたるものは宮の社段か、般若の倉か、尚も与平治の道楽か」と唄われたとおり、100メートル余りもある高い石段があり、下からお社を見上げると、ずいぶん高い所にあってその周囲をこんもりとした森がかこんでいます。

singurimakuri大正の初めまでは、直径1メートル余りもある大きい杉や松がありましたが、台風で倒れたり、松喰い虫の被害や、古損木となったりして、今はそんな大木ではありませんが、それでも森の森厳さは保たれて神々しいお宮さんです。
その昔、この石段には、時おり夕方になると、「しんぐりまくり」というあやしい者が来て、しんぐりをまくる(ころがす)ことがあるといって恐れられていました。
「しんぐり」とは、竹で編んで魚を入れるかごで、魚取りにはなくてはならないものです。そのしんぐりの中には、いたずら小僧が入れられていると言うのです。
こんなしんぐりに入れられて、高い石段からころがされると、どんなになってしまうのか、わかりきったことです。
そこでこの地方では、子どもがいたずらをすると、「それ、また、しんぐりまくりがやってくるぞ」と言っておどかしますから、子どもはおとなしくなるというのです。