愛宕代参

菅生の大垣内では、昔から火災がありません。これは、古くから京都愛宕神社の火伏せの神、火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)をお請けしてまつり、その上、毎年本社に代参して祈祷する、そのご利益によるものなのでしょう。

atagodaisan戦後まもなく、振り上げで代参二人が決まりました。桜のころをあるいて名張へ。電車で京都に着き、山の上の愛宕権現様に参拝を済ませた二人は、清瀧の橋のたもとに宿を取りました。川魚の料理でほどよく地酒の酔いもまわる。謡曲が得意な二人は、清流と満開の桜を愛でながら、数曲うたいあげ、最高の気分でぐっすり眠ってしまいました。
あくる朝目を目を覚ましましたが、さあ大変。
床の間に置いた財布や、身の回りの品々がごっそり盗られてしまっています。朗々と流れてくる謡いの主は、お金持ちの旦那さんであろうと、泥棒がめっこを入れていたのでしょうか。宿からわずかの代償をもらい、どうにか帰宅して護符を配ったのでした。

数年後、代参が決まって、名張から八木経由で京都に。数時間かかって山を登り、本社に祈祷を終え、京都駅に着きました。駅は人々で混雑していました。土地不案内の二人は迷いつつも、八木行きの電車を教えてもらい、急いで飛び乗りました。程なく車掌の検札で、山陰線の八木とまちがえていることを知り、困り果てました。止むなく車掌に教えられたとおり、福知山から大阪に出て、上六を経由し、最終電車でようやく着きました。

弥次喜多道中まがいのほんとうの話です。