他惣治天狗

鍋倉渓の誕生って・・・
むかーしのお話。すばしっこくてあらっぽいことが大好きな男の子。その名は他惣治。毎日暇を見つけては神野山へ登って「えいえい」と岩や木をたたきわって遊んでいたそうな。その声は伊賀の山々まで聞こえるほどの元気者。
tasojitenguある日、「ええ根性の子がおるじゃないか。わしの弟子として仕込んじゃろう。」と思った伊賀の青天狗は、声をかけた。
「おーい、そこの子供よ。おれは伊賀の青天狗じゃが、弟子になる気はないかえ。」
谷から山からおんおんと響く天狗の声を聞いてびっくりしたのは、神野山の赤天狗。
「こらあ。何を言うんじゃ。あの子はわしが前から目をつけてた子じゃ。お前には渡さんぞ。」
「やかましい。先に言ったのはわしじゃ。」
とうとう喧嘩をはじめた神野山の赤天狗と伊賀の青天狗。言い合いだけでなく、伊賀の青天狗が山の岩を放ってくるまでの争いに・・・
そのうち岩は神野山からごろんごろんと下の山に落ちるようになってきた。見ていた他惣治は心配になり、「えらいこっちゃ、岩が転げたらどうしよう。やめてくれよう。」とどなったが、青天狗はやめなかったんだと。
そうしているうちに、伊賀の山は、岩をひきおこし木はひっくりかえり、穴ぼこだらけとなり・・・。
「やめてくれよう。」とさけんだ他惣治に赤天狗が言った。
「心配いらん、岩が村に落ちることないがな。けど、そんなに気になるなら、わしの術で、あんな岩ぐらいとめてやろう。」
きりっと伊賀の方をにらむと、岩はぱたりと飛んでこなくなった。
「どうじゃ、伊賀の青天狗。お前んとこはとうとうはげ山になってしもうたがな。あっはっはっ。」
「さあ、他惣治。今日からわしが天狗の術を教えてやろう。よいか。」
「はい、頼みます。」こうして他惣治は神野山の赤天狗の弟子となったそうじゃ。
それから、熱心な他惣治は、じきに天狗とび切りの術を覚えて、村へと帰っていったそうな。

鍋倉渓のあの多くの黒い岩。伊賀の青天狗が放ったものが集まってできたものやと伝えられておるそうじゃ。