大師の硯石

神野山から大塩へ下る麓に4メートル四方の大岩があって、岩の上の20センチメートルぐらいの凹みに水がたまっています。この水はあふれることなく、全くなくなりもせず、いつも同じようにたまっています。

daisinosuzuriisiむかし、弘法大師が北野村から神野山へ登られる時、この村の人たちが道案内をしました。
大岩の所で弘法大師が村人に言いました。
「何か困っていることはないかのう」
「はい、ここは山奥で、塩がないので困っています」
「それでは塩が出るようにしてやろう」
お大師さんは念仏を唱えながら、持っていた杖で大岩を二、三度ポンポンとたたきました。するとポコッと穴が開いて、中から塩水が湧いてきました。お大師さんは、塩水から取った塩を村人にわけあたえられました。
「この水は一日に何べんも増えたり減ったりするぞ。この水加減で、伊勢の海の潮の満ち干がわかる。また人の生き死にもわかるだろう」と言われました。

それから今日まで、大石の水は絶えたことがありません。岩が硯石のかっこうをしているので、村の人は大師の硯石と言って水を見ています。山添村の「大塩」という地名もそれから起こったと言います。
このあたり一帯に、むかしは岩塩が出たのかもしれません。近くに塩瀬地蔵が祀られているのも何かの縁だろうと言われています。