大垣内の美女とその子

昔から、天守山のふもとに十数戸の集落があった。これが菅生の草分けの地“大垣内”なんや。
ここに、すばらしく美しい娘が育っておった。時々天守山城にお成りのお殿様に聞こえぬはずがない。やがて召されて、お殿様のお嫁さんになった。

ogettenobijoさて、そのお嫁さん、お腹が大きなってきたころ、おならはずしはったらしい。「ブウー」とな。すると、お殿さん「いてらん、いね」って追い出してしまわはった。いんでから、お嫁さんに赤ん坊が生まれた。赤ん坊はすくすく育って、よっぽど大きくなったころ、「お母さん、みんなだれでもお父はんあるのに、私にはお父はんあらへん、どういうわけや」ちゅうて母親に聞いたらしい。お母さんは返事に困ったけど、思い切って話してやらはった。「恥ずかしい話やけど、お前がお腹にいる時にな、おならはずしてしもて、それで追い出されてしもたんや」-と。

それを聞いた子は、「そうですか…、そんならわし、ちょっと明日から…。お弁(弁当)炊いて下さい」と言うと、次の日、どこへやら出かけて行ったそうな。殿様の屋敷近くでは、「屁の種いりまへんかぁー、屁の種いりまへんかぁー、屁の種売りますー」と、毎日さけび歩く者があるんじゃと。そのうちお殿様の耳に入って、「もしや、これは吾子では…。吾子に間違いない」と勘付かはったらしい。

そこで、その子を呼んでお殿様は、「五万石やるから下がれ」とおっしゃったそうな。しかしその子は返事をしない。お殿様はまた「五万石やるから下がれ」とくり返し三回おっしゃった時、「はい、ありがとうございます」ちゅうたと。
いよいよ五万石の金子をお殿様がやろうとしゃっはったら、「ちょっと待って下さい。お殿さんちゅうもんは、一言はっちゃ言わんもんなのに、三言もおっしゃった。よって、三、五、十五万石もらわななりまへん」と言って聞かない。
あんじょう理屈に詰まってしもうて、十五万石もらい、そしてお殿さんの座におさまったんじゃと。