不動の滝

今の五月橋から月ヶ瀬に通じる観光道路は、昔は人一人が通るほど細いけわしい道でした。両方から熊笹がおおいかぶさり、とても難儀な道でした。

fudonotaki不動の滝は、遅瀬から月ヶ瀬への途中にあり、いくつもの滝が連なり、最後の大滝は4~5mもあって、幾条もの水が流れ落ち、すばらしい景色を作っていました。滝のほとりには不動明王を祀るお堂があって、人々はそこでお籠りをし、仏に祈ったのです。
滝水が落ちる川面を蛇淵と言います。向こう岸の藤のつるが伸びるころ、大蛇がそれを伝わってこちらの藤に渡り、天上を向くと大雨が降ると伝えられました。「遅瀬の蛇淵に蛇がいるジャげんな。おんジャかめんジャかわからんジャー」とも言われます。
滝の近くに大きなゴマタキ岩があります。長い日照りが続く時は、この岩で僧侶や山伏が護摩を焚いて雨乞い祈願をしたと聞きます。

西の山には天狗岩があります。背丈4m、上は畳4畳半もある広さで、その昔、付近で天狗が集まって、相撲大会をしたそうです。その下が老間の瀬。尾山の真福寺から眺めると、山の端から月が出て、この瀬を照らし、さざ波がきらきらと輝いてとても美しいのです。それで月ヶ瀬の名前が生まれたそうです。その上の方に梅がたくさん咲いていて、月ヶ瀬の梅からは離れているので、隠れ梅の里と言われています。

そんな多くのいわれに囲まれて、不動の滝は、明治・大正・昭和の初期まで大変にぎわいました。多くの幟も立ち、布教師も住んで、縁日には白衣で滝に打たれる人、お籠りを続ける人でにぎわいました。近郷はもとより、遠くの人たちもお陰をいただこうと熱心に足を運んだものです。

そんなにぎわいもいつしか絶え、その上観光道路もできて、今は、残っているわずかな滝が流れ落ちているだけになりました。「不動の滝」は今、遅瀬の学校道の滝に移され、館も建てられて、遅瀬の信心深いおばあさんたちが月一度お参りして念仏を捧げています。