庄田さんの話

森田の家に伝わる話です。

天正のころ(1573~)、村の後の峰の上に庄田さんという侍が住んでいました。その子の庄田新八良藤原千代松は、小さい時から学問が好きで、昼も夜も本を読んでいました。北野の天神社や神野寺へもお参りして、勉強を積みました。武芸にも熱心で、馬に乗って柳生道場にも通い、技を磨きました。

syoudasannohanasiある秋のことです。大夕立があって、庭に干してあった籾がすっかり流されてしまいました。家の中で一心に本を読んでいた新八良は大雨に気づかず、籾の片付けを忘れていたのです。
野良から帰ったおとうさんは、怒って新八良の大切な本をみんな燃やしてしまいました。本は黒い火のかたまりとなって空にのぼり、西へ西へと飛んで、奈良の谷間に落ちました。それからそこを「火落ち谷」と呼ぶようになりました。

その後新八良は家出をしたのですが、村を出る時、村びとに刀とふとんをあずけ「わしが帰ってこなかったら森の八幡さんに祀ってくれ」と言い残したそうです。それから新八良の行方はわからないままです。柳生や方々で武芸にはげみ、立派な武士になったとも言われています。

森田の裏山に八幡さんの祠があります。毎年十月十五日を命日として、おまつりをしています。森田の家には「新八良千代松のうばなり」という天正時代の位牌がありますし、峰には「庄田屋敷」という畑や「馬洗いたんぼ」、「馬駆け場」があり、庄田さんが作った道しるべも残っています。